「姉妹の朝」

午前6時半過ぎ…
布団からすっと立ち上がる猫がいた。長身で美しい雌猫。
その寝起きの良さをみると布団から出なかっただけで目は覚めていたのかもしれない。
立ち上がると同時に水のように銀の髪がサラサラと足元まで流れた。

細く長い目を鏡に向け身仕度を始める。

「今日はどうやって起こそうか…」

彼女の名前はキョーラ。
彼女の今の興味は朝食ではなく、妹シャールをどう起こすか、に尽きていた。

尻尾を引っ張る
耳をくすぐる
脚に噛みつく

毎日、そんな風に普通に起こさないキョーラに
「普通に起こしてよ!」
とシャールは言うものの自分で起きようとしないあたりそう不愉快ではないらしい。

朝から和食、焼き魚にお味噌汁、ご飯、を希望するキョーラだが
シャールの懇願には勝てずパンを焼き始めた。
調理や用意は簡単だが洋食に若干不満がある姉は妹の部屋に向かう。


そーっとドアを開けると、すーすーと寝息をたてて眠るシャールが。
抱きついて起こしたいがそれは我慢。
キョーラは自前の長い髪の先を器用に束ね、筆のようなものを作り上げる。
シャールが寝ているベッドに腰掛け、髪筆で鼻をくすぐる。
なんともうざったらしい起こし方だが、キョーラの顔は意外にも真剣だ。

こちょこちょ

シャールが寝たまま顔をしかめる。
キョーラは笑みをこぼし、追撃する。

こちょこちょこちょ

へっくち!

は!(・д・;)

シャールが目覚めると床で声なく笑い悶える姉を確認した。

「もう!普通に起こしてって言ったでしょ!」
照れながら怒ったように振る舞う妹を無視し
「お早う、ご飯できてるわ」と言う姉、平静を装いながらも顔は笑いに歪んでいる。

無茶な起こされ方をしたものの眠そうなシャール。もしゃもしゃと朝食を消費する。
キョーラは朝食を既に済ませ、テレビのニュースを見ているが
シャールのグダグダな様子も見逃さない。

だんだん目が覚め、表情がいつものシャールに戻ってゆき、
神楽坂女学院の制服に着替え登校の準備をする。
「あ!今日日直だったんだ!」
シャールが今日日直である事を思い出した、時間的に遅刻しないが
日直の仕事のため早く登校しなければならない。

いきなり慌ただしく用意し始め、「い、いってきます!」と
マンションのドアから慌てて飛び出すシャール。

キョーラは憂いの表情を浮かべ朝食の後片付けを…

あ(・д・)

「あの子…お弁当忘れてるわ…」

困ったような嬉しそうな表情で、はぁっとため息をつく。
時計を見るとシャールが出て5分とちょっと…

ああみえてシャールの運動能力は侮れない、5分で一体どこまで移動したか…

キョーラは表情を鋭くすると妹が忘れたお弁当を口にくわえドアを開けて下を見る。

何という事か…!
この最上階から既に地上までたどり着き、風のように走り去るシャールが見える。
ツインテールの美しい黄金の髪をなびかせ角を曲がり消えた。

我が妹ながら恐ろしい身体能力。

感心している場合じゃない、このままではあっという間に追いつけない。

キョーラは物凄いスピードで廊下を走り抜け、最上階の手すりを越え、
バッと空中に飛び出した。一見すると飛び降り自殺。

しかしキョーラは慣れた様に鉄柱や電信柱を使いながら地上に向かう。
長い銀髪が体の後を追う。

音もなく両手両足で地面に着地すると、シャールが走り去った方向へ走り出す。

走るというより一足一足飛ぶ様に移動するシャール。
シャールの大きな耳が聞き慣れた声をとらえた。

「シャール!」

はたと立ち止まるシャール。

頭上をキョーラが飛び越し、シャールの前で着地。

「お弁当忘れてるわ」そう言うと、シャールにお弁当を渡す。
「あ、ありがとう…お姉ちゃん…」
シャールは照れをごまかすように嬉しそうに笑う。
「急ぐのもいいけど気を付けて行きなさい」
「うん、ありがとう、いってきます」
「それと」
「ん?」
「姉様と呼びなさい」
ニヤっと笑いそう言ってキョーラはまた飛んで行った。
シャールは困った様に笑い、さっきよりもほんの少しゆっくり学校へ走り出した。