「ルーツ・コンビニ」

平日のコンビニ…家に帰る会社員や学生が立ち寄る時間帯。
そこでやや緊張して本を立ち読んでいるのは小山犬子。
彼女は学校の帰りによくこのコンビニへ立ち寄る。


そんな習慣になった行動とはちょっと違って今日は緊張していた。
「遅れてごめん、小山さん」そう声をかけられ犬子は緊張して「だ、大丈夫」と返事をした。
犬子が緊張していた理由は声の主、和太郎が思いを寄せる人だからだ。


小柄だが整った顔立ち、眼鏡がよく似合っている。
その容姿と頭の良さから、彼に想いを寄せる女子は多い。
犬子はそれに比べ特に男子から注目される事は無い自分の容姿に自信を持てないでいた。

今日は2人でクラス委員の打ち合わせをする予定だったが、
学校では女子達から邪魔が入るため学外で打ち合わせをする事になった。
「じゃあ行こう」
笑顔で和太郎に促され、犬子はのぼせたようにフラフラとコンビニを出た。

・・・・・・・・・・・・・・

やや学校から離れたドッグカフェで打ち合わせがされた。打ち合わせは難なく進み、
思ったより時間がかからず終了した。まだ日も沈む前だ。

「良かった、暗くなる前に小山さんを送れそうだね」和太郎がそう言うと犬子は残念そうに笑った。
「智輪君がうまくまとめてくれたからだよ。私なんてほとんどぼーっとしてただけで…」犬子の苦笑いに
和太郎は「そんな事ないよ、小山さんが居ないとダメなんだから」と返した。

まだ何か言おうとした和太郎の眼が急に鋭くなる。
その視線の先にはいかにもガラの悪そうな学生達がいる。

「お?オマエ、智輪じゃねぇか」学生は和太郎を知っているようだ。

「?智輪君の事知ってるみたいだけど…」犬子は心配そうに和太郎をみる。
「構わない方がいいよ、無視しよ」和太郎が犬子を促し歩きだす。

「てめぇ!シカトしてんじゃねぇ!」1人がいきなり和太郎に殴りかかってきたが
和太郎はスッとかわすと相手に肘打ちをした!

「僕に構うな!」和太郎が恐ろしい眼光で睨みつけそう言った。
が、いう事を聞くわけがない。

「キャ!」
犬子の悲鳴に和太郎が我にかえり振り向くと犬子が後ろから腕を掴まれている。
「小山さん!!!」

「女なんて連れてるからだぜ智輪、今日は昔の借りを返させてもらうぜ」グループのボスらしき犬がそう言った。
和太郎は睨む事しかできなかった。

・・・・・・・・・・・・・・

場所は変わって15分前
ここは犬子達が打ち合わせをしたドッグカフェ前にあるバス停、程なくしてバスがきた。

バスに背の高い1匹の猫が乗車した。運転士を含め乗客がその猫に注目する。
その猫は長い銀の髪をなびかせ空いていた窓側の席に座った。
運転士は我にかえり慌ててバスを発車させた。


乗客達の異常な反応とも取れるが全く気にとめもしないこの猫の名はキョーラ。
キョーラは夕飯の買い物帰りにバスを使ったのだ。
普通は歩くか自転車で行ける距離なのだが、バスから見える景色と雰囲気が好きで気まぐれにバスを使う事がある。
「今日は夕日が綺麗…」

キョーラは目的地前のバス停で降り歩いて帰る事にした、夕日を見て帰りたいようだ。

途中下車したキョーラは近隣で1番高いビルを目指した。
このビルはキョーラのお気に入り。屋上からの眺めは、東西に視界を遮るような建物が無く、月や夕日を見るには最適なのだ。

キョーラは人々視線を避けるようにビルの谷間へ入っていく。
自分のマンションと同様に非常階段や隣のビル、扇外機を足場に一気に屋上へ飛んでゆく。
完全な不法侵入だが、全く気にする素振りはない。

無駄に屋上より高く飛び出し、着地した。

太陽の残り火を感じ、屋上にふく風を楽しみながら何となく地上を見下ろしている。

「ん…あれは…」

・・・・・・・・・・・・・・

「こ、小山さんを…はなせ…」
犬子を人質にとられ全く抵抗できない和太郎、やっと意識を保っている様子だ。
「智輪よー女より自分の心配をしな!」
1人がそういうと倒れている和太郎の腹部に蹴りをいれた。
「ぐっ…!」
「智輪君!」必死に逃れようとする犬子だが力任せに押さえつけられ身動きができない。
「僕に恨みが…あるなら…僕を狙えばいいだろう」
小山さんをはなせ、と言う前に頭を踏みつけられる。
「そんなにその女が大事か智輪、じゃあてめぇがくたばったらその女にもしつけをしてやるぜ」
ボスらしき犬が思いきり和太郎の背中を蹴飛ばす。
「………!!!」
呼吸が乱れ、意識が飛びそうになる和太郎。
どうにか小山さんだけでも…そう思うが多勢に無勢。
「止めて!智輪君!」
泣き声に近い犬子の悲鳴。
「お前も智輪じゃなくて自分の心配をしな、もっと酷い目にあうからな」
犬子を押さえつけている犬が不気味にニヤニヤと笑う。

「こ、小山さ…」
「てめぇはもう終わりだ智輪!!」

バキッ!
何かが折れる音、そして犬子を押さえつけていた犬が和太郎の横に吹き飛んできた。

腰が抜けたようにへたり込む犬子の横には銀色の猫。犬子は実際にこの猫と会ったことがある、いつも行くあのコンビニで…
「キョ、キョーラさん…」
「あなたは…大丈夫そうね」
笑顔で犬子にそう言うキョーラだが目は笑っていない。
「あなた達…女の子を人質にとってその子を一方的に追い詰めるなんてちょっと酷くないかしら」
紫色の瞳が犬達を穏やかに睨む。
「何だあんた…俺らに興味あるわけ?」ボスらしき犬がそう言ったが吹き飛んだ犬をみて明らかに怯えている。
キョーラは聞く耳もたず和太郎を蹴った犬の顎を脚で打った。
狙った場所が場所だけに加減していたもののあっさり事切れた犬が倒れ込む。
「何か言った?」
キョーラが何事も無かったようにそう言うと、何人か逃げようと走りだす。

ただ…キョーラは全く逃す気がない。
一足飛びで逃げ出した数人に追いつき思いきり張り飛ばした。
「仲間を置いて逃げちゃダメよ」
倒れた数人を見下ろすキョーラ。

その後、逃げる者、向かってくる者問わずキョーラは問答無用で吹き飛ばしていった。

完全な傷害罪だが気にする素振りは全くない。

「す、すいません…ありがとうございます」
すでにいくらか回復した和太郎はキョーラに頭を下げた。キョーラの一挙一動に見とれていた犬子も慌てて頭を下げた。

「君、女の子を守ろうとするのは良い事だけど、もう少し頭を使いなさい」
キョーラは和太郎にそう言い、
「君、過去に何があったかは知らないけど、一度ちゃんと彼らと話し合った方がいいわよ」
と、付け加えた。
「はい・・・」
明らかにしょぼくれている和太郎にキョーラは近づき傷を診る、ほぼ打撲傷だが左腕に擦り傷があり毛に血がにじんでいる。
「これくらいなら舐めとけば治るわね」
そういうとキョーラは和太郎の傷を舐め始めた。
和太郎は驚きと緊張で動けなくなっている。
「ひゃ!キョ、キョーラさん!」
犬子がキョーラの突然の行動に驚いた。いくらキョーラでもその大胆な行動に嫉妬を覚える。
「冗談よ」さっきとは違う自然な笑顔のキョーラ。明らかに2人をからかったのか。
「君、後は犬子さんにやってもらうのね」
犬子は赤くなりうつむいてしまう。やる気はあるようだが・・・

「おやすみなさい、帰りは気をつけてね」
キョーラは2人に別れを告げ、去っていった。

・ ・・・・・・・・・・・・・

「お帰りー、お姉ちゃん遅かったー」
自宅に着くとシャールが玄関にやってきた。
「ただいま、シャール」
そう言って抱きつこうとするキョーラをさらりとかわすシャール。
「今日は私が晩ごはん作るよ!」
と満面の笑みで台所へ行ってしまった。
「お姉ちゃんは先にお風呂でも入っててー」
台所からシャールの指示。キョーラはある事を思い出した。
「シャール、今日体操着使ったでしょ?お風呂入る時に洗うから出しなさい」
台所から顔だけ出したシャールは
「え、何でお風呂なの!?意味わかんないよ!普通に洗濯機で洗ってるから!」
と言ってキョーラの奇行を軽く阻止して作業に戻った。
「そうなのー」
忌々しそうに洗濯機を見つめるキョーラ。
体操着に何の用があったのか・・・

若干不満は残るキョーラだが
シャールの晩ごはんを楽しみに気分良く風呂場のドアを開けた。